コミュニケーション能力のスキルアップ相談に来られるコミュトレメンバーのうち、1/3以上はIT系エンジニアの方です。その中でも、社会人15年目(およそ30代中盤)以降の中堅エンジニアとお会いすることも多いです。
彼らと会話していると、たまに出てくるのが「後輩や新人の面倒をみないといけないのが、とにかくめんどくさい」という話。
なぜなんですか、と聞くと色々な答えが返ってくるのですが、そのうちの1つが「相手が理解したかどうかがわからない」というもの。問いかけても反応がうすかったり曖昧だったりで、「ハッキリしてくれ~!」と苛立ちを感じることがあるようです。
一般的に中堅層ともなれば、高度な専門知識を初心者レベルの後輩にもわかるようにかみ砕いて説明していく必要がありますよね。とはいっても「後輩とでは大きな技術差がある分、教えてもいっぺんに吸収してくれない」現実も。
一方で、時間をかけて教えていけばよいかというと、「自分のタスクの納期もあるので、本業務の合間に教えることが多い」方も多く、難しいところなのかもしれません。
だから、理解したかどうか判別できないと、説明が終わるまでに余計な時間がかかってしまいます。1分1秒が惜しい先輩エンジニアにとっては、ちょっと溜息が出ちゃいますね…^^;
とはいえ、「自分の頭にある情報を相手の頭の中にそのままインストールする」ことをコミュニケーション活動だと定義するなら、指導業務をスムーズに行うためのコミュニケーション能力は「正しい知識」と「反復訓練」によって、相当なレベルまで鍛えられます。
実際、コミュトレにはたくさんのエンジニアがいますが、最初は説明がおぼつかなくて「めんどくさい」と感じていた人も、相手に正しくわかってもらうためのコミュニケーションのとり方を理解したことで、後輩の教育がスムーズになった方はたくさんいます。
そこで今回は、とあるメンバーさんの成果報告をもとに、後輩の指導業務をスムーズに行うためのコミュニケーションの秘訣を少し紹介します。
「反応がうすくて、何を考えているかよくわからない」という後輩をもつ中堅エンジニアの方のお役に立てたら嬉しいです。
目次
反応がうすい後輩と距離を縮められたシンプルなきっかけ
先日、とある女性エンジニアの方から、後輩指導について成果報告をいただきました。
彼女はエンジニア歴20年以上のベテランSE、Mさんです。
ある年の秋、第2新卒の男性社員が自分の指導の下についたときのことです。
Mさん
「彼は最初会ったとき、とにかく反応がうすかったんです。こちらがしゃべっても、聞いているのか聞いていないのか、よくわからない表情をすることが多かったんですよね…。なので、一生懸命説明したあとに『で、わからないところはある?大丈夫?』と聞いたんですが、表情一つ変えず、黙り込んでしまいました。
一体何を考えているのかわからなくて、つい『本当にわかってる?』と責め口調になってしまうことも多かったんですね。もちろん、別に彼を攻撃したいんじゃなくて、単に状況確認したいだけだったんですけど、余計、彼を萎縮させてしまったようで。指導が終わったあとの普通の会話もなんかお互いぎこちないまま終わってしまうことも多かったんです。」
Mさんは、面倒見がよく仕事に対しても熱心にとり組む方ですが、このときは後輩の反応が読めないがゆえに、上記のようについ感情的になってしまったそうなんです。(実は、同じようなご相談は多くの方から伺います。)
じゃあ、彼に対してどうしたんですかと聞いてみました。
Mさん
「どうしたらいいかわからなかったので、コミュトレのトレーニングに行って、リレーションシップ(職場の人間関係を良好にする)コースを担当しているインストラクターに質問してみたんです。そしたら、『なんでもいいから、自分から話しかけ続けてごらん』とアドバイスをもらったのでやってみることにしました。」
彼女にとっては、後輩は良い人ではあるけど少し扱いづらいと感じることもあったので、最初は勇気がいったそうです。でも、まずは、「朝の挨拶のとき、ともかくひと言声をかけ続けよう」と決心されたのだとか。
Mさん
「具体的には、朝、彼に会ったら、反応がなくても『プラスアルファのひと言雑談』を振るようにしました。例えば『きのう台風すごかったねー!』とか『今週は3連休あるねー!』とか。でも、はじめは『はい』しか返ってこなかったんです。で、そのあとはずっと沈黙。この沈黙は、わかっていてもちょっと気まずかったですね(笑)」
このように、最初はうまくいかなかったみたいですが、彼女なりに話しかけ続けた結果、
2週間くらい経過したころから、後輩に変化が起こりはじめたそうです。
Mさん
「昨年の10月のことです。その日は確か、気温が20度近くあって、通勤中に汗がにじむくらい暑かったんですね。そこでいつものように『今日もなんか暑いねー!』と後輩に話しかけました。そしたら、彼も『そうですねー、僕も汗だくなんですよ』と返してくれたんです!!」
「はい」か「いいえ」しか言わなかった後輩が、彼なりに言葉を返してくれるようになったのは大きな変化ですね。
それ以降、彼に指導するとき、これまでのような無反応ではなく、話を聞きながら彼なりに頷いたり、相槌を打ったりして、彼女の説明に反応してくれるようになったそうです。
彼女はその後、懇親会で彼に「○○くん、最近変わったよね~」と言ったら、
彼曰く、「最初Mさんに対しては、どう話したらいいかわからなかったんです。年齢の差が20歳近くあったし、何言ってもダメ出しされるんじゃないかって。しかも女性だから、うっかり変なことを言おうものなら、セクハラ扱いされるんじゃないかって考えると話せなくて…」と色々と苦悩していたのだとか。
しかし、ここ最近はMさんが積極的に話しかけてくれるので、「あ、しゃべっても大丈夫なのかな」と安心するようになったとのこと。
つまり、彼は決して不真面目なわけでも、話を理解していないわけでもなかったんですね。ただ、Mさんの反応を気にしすぎて、言葉を探しているうちに結果的に黙り込んでしまっていただけなんです。
彼がMさんに心を開けるようになったのは、積極的に話しかけ続けて「話しやすい雰囲気」をつくりだすという、一見なんだそんなことかと思うような、このシンプルな行動が大事だったんです。
わかりやすい話をする前に、安心してもらう
通常、後輩指導と言うと「どう説明すればいいか」に意識を向けがちです。
なので、「どうやれば端的に説明できるようになるか」「どうすれば説得力をもって話せるようになるか」というご相談を頻繁にいただきます。
その前にどうでしょう?
そもそも相手が「集中して聞こう」という前向きな心理状態になっているかどうかは、さほど気にしていない(むしろ前提としている)方がほとんどのように見受けられます。
しかし、私たちは論理的な思考で考える前に、感情の動物です。
自分にとって「なんだか距離があるな…」と思う人の話を素直に聞けるかというと、ちょっと難しいのかもしれません。逆に「この人は自分を受け入れてくれている」と思える人の言葉であれば、一生懸命聞こうとするのではないでしょうか。
後輩の中には「わからないことを『わからない』と素直に言えない」と遠慮している方も少なくありません。だからこそ、大事なのは安心できる環境をつくること。
今回は「反応がわかりづらい後輩」に焦点を当てて解説しましたが、どんな相手であっても、受け入れる姿勢を示すことによってはじめて、円滑なコミュニケーションをとる土台が構築できると言えます。その土台があるからこそ、後の説明がすんなり受け入れられます。その結果、指導の効率も大きく上がることでしょう。
🌞 相手に安心感を与える上で大切な力の1つである『傾聴力』については、こちらもどうぞ!
まとめ
いかがでしたでしょうか。
後輩やチームをもつ中堅エンジニアの方にとって、自分自身が成長し続けるためにも、スムーズにスキルシフトをしていけるかどうかは大きな課題と言えます。
その際、後輩が必ずしも自分にとって「話しやすい」と思える人ばかりではないでしょう。人間は感情の動物だからこそ、どう説明するかを考える前に、相手が安心できる体勢をつくる。これが鉄則ですね。
はじめは面倒に思うかもしれませんが、一度その姿勢を身につければどんな後輩であったとしても、指導しやすい関係が築けます。そういう意味で、非常にコストパフォーマンスが高いノウハウですので、是非実践してみてください~♪
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