先日、友人のA君からこんな相談を受けました。
「将来のやりたいことが、見つからない」
A君は、機械メーカーの営業職を5年近く勤めていたのですが、
トップセールス常連の先輩から
「お前は、仕事を楽しんでいるように思えない」
「言われたことをただこなしているだけ」
「理想とする営業マンのイメージはある?ないなら営業に向いていないんじゃないの」
と指摘されたそう。
それを受けて、彼は
「正直自分でも、営業が好きとか、楽しいとは思えない。このまま営業を続けるべきなのか、それとも自分がやりたいことをやるべきなのか…」
と頭を抱え込んでいました。
そこで私は、聞きました。
「あなたのやりたいことって何かあるの?」
A君は、ため息をついて答えました。
「やりたいことがなかなか思い浮かばないんだ。何に向いているかも分からないし」
「やりたいこと」の発見によって、エースになったH君の話
そんな悩みを聞きながら、私はある1人の後輩、H君の話を思い出しました。
H君は新卒で弊社に入社後、営業マンとして営業現場の第一線を走ってきた人です。
2年目までの彼は、仕事ぶりで見れば「人並み」でした。
自分と世代が離れたお客様に対応することも多々ありましたが、「ミスのないように」と身構えてしまい、かえって空回りすることも多かったそうです。
日常業務も、真面目に取り組んでいたものの、どこか「やらされている感」が拭えなかったとのこと。
しかし、3年目の夏を迎えるころから、彼は「大化け」しました。
ある月の月間売上は、弊社内トップクラスを達成。そればかりでなく、部平均の1.5倍以上を上回る成約率を四半期にわたって記録し続けました。
部全体の常識観を塗り替えるその躍進ぶりに、部門長が全社員の前で、名指しで褒め称えるほど。
いまや部のエース級となったH君に、
「どうしてそんなに変われたの?」
と聞いたところ、
「仕事に向き合う姿勢が変わったからだと思います」
という答えが真っ先に返ってきたのです。
上司とのミーティングや、コーチングで
「将来どう働きたいのか?何をやりたいのか?」
と問われ、自分なりの答えを考え続けていくうちに、
今の仕事が何につながるのか、どんな意義があるのかはっきりと見えてきたそうです。
その結果、心に巣食っていた「やらされ感」が払しょくされ、
自分からどんどん「これしたい!」「あれしたい!」と工夫するようになったとのこと。
その工夫と行動量が積み重なった結果、
苦手意識を感じていたお客様にも余裕をもって対応できるようになり、一回り以上離れたお客様からも一目置かれる存在にまで成長しました。
そして、3か月過ぎたころには、数字に最も厳しい営業部長からも「もう手放しで安心して任せられる」と、一人前として認められるようになっていました。
このH君の話を聞くと、多くの人は「やっぱり、やりたいことを見つけるのが大事だよね」と考えることでしょう。
しかし私は、少し違った見方ができるのでは、と考えています。
つまり、H君にとっては、人生が変わったきっかけがたまたま「なりたい姿が見つかったこと」だったのであって、
本質的には「目の前に突き出された問いに対して、真摯に向き合い続けたこと」が真の転機だったのではないか、ということです。
人生の転機は、「たまたま出会った課題と真摯に向き合う」姿勢からもたらされる
「やりたいことが見つかれば、人生が変わる」と考える人は、少なくありません。
さらには、「明確な理想に向かって邁進する人」が勝ち組で、「理想がない人」は負け組だというニュアンスを帯びることすら、ときにあります。
だからこそ、やりたいことが見つからないことに負い目を感じ、必死に「自分探し」をする人も一定数います。
しかし、人生の転機は、意外にも「やりたいことを見つけて、計画的に行動すること」より、「当初まったく想定していなかった偶然との出会い」からもたらされることも多いもの。
キャリアは偶然の積み重ねによって形成される
「計画された偶発性理論(Planned Happenstance)」を提唱したスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授によれば、「キャリアの8割は偶然の出来事によって形成される」とのこと。
クランボルツ教授らが米国の社会人に行った調査によると、18歳時点でなりたいと思っていた職業についた社会人の割合は、わずか2%だったそうです。
つまり、「目標を決めて逆算する」という従来のキャリア論には限界があるのです。
特に、変化が早い現代社会においては、世の中で必要とされることが刻一刻と変化しており、計画通りに物事が進むことはほとんどありませんよね。
だからこそ、「キャリアを形成するうえで重要なことは、偶然の出来事や出会いをキャリアアップにつながる機会と捉えること」と教授は喝破しています。
人生の目標を決め、将来のキャリア設計を考え、自分の性格やタイプを分析したからといって、自分が望む仕事を見つけることができ、理想のライフスタイルを手に入れることができるとは限りません。
人生には、予測不可能なことのほうが多いし、あなたは遭遇する人々や出来事の影響を受け続けるのです。
結果がわからないときでも、行動を起こしてチャンスを切り開くこと、 偶然の出来事を活用すること、選択肢を常にオープンにしておくこと、そして人生に起きることを最大限に活用することです。
出典:『その幸運は偶然ではないんです!』(J.D.クランボルツ, A.S.レヴィン ダイヤモンド社)p4
点と点を結んだ先に見える世界
実際、世の中の偉大な業績は、計画ではなく偶然によってもたらされたものも少なくありません。
洗練されたデザインによって世界中のファンを魅了するApple製品も、もともとのきっかけは、大学を中退した故スティーブ・ジョブズが、そのとき興味があったカリグラフィーの授業にたまたま潜り込んだことにありました。
ジョブズは、カリグラフィーの授業を通じて、美しい文字の作り方や字間のスペースなどについて、深く学びました。
彼はその当時を、
「もし、私が大学でカリグラフィーの授業にもぐりこんでいなかったら、MaC製品が美しい書体を持つことは無かっただろう」
と懐柔しています。
参考:【英語+日本語字幕】スティーブ・ジョブズ「Connecting the dots」1/3:2005年スタンフォード大学卒業式でのスピーチ
このエピソードは、Connecting dots(点と点を結ぶ)というジョブズの名言でよく知られていますが、
ジョブズに限らず、目の前にたまたま現れた課題に一生懸命取り組む経験によって、人生が変わってきたという事例は少なくありません。
実際、コミュトレで急成長した受講生からも、同じ話を聞いたことがあります。
いや、実を言うと、これといった理想像があるわけではないんですよね。
とにかく仕事でのストレスを減らしたいっていう気持ちで始めたので、はじめの内は「タメになるな。でも、コレ自分はできてないな」と思うことばかりでした。
何かを目指すというよりも、目の前のものを吸収するのに精いっぱいだったんです。
(略)
学び始めて半年くらい経ってから、「学ぶこと自体が楽しい」と思えるようになってきました。
点と点が線でつながったっていうんですかね、「あ、これは、あの時学んだことと似てるな」っていう共通項が見えてきたんです。
出典:「明確な目標」がなくて焦っている人に知ってほしい、成長のプロセスの話。
こう考えると、もし今現在、やりたいことが見つからずに苦しんでいるとしたら、その状況を脱却することは可能といえます。
その先には、夢中になって自分からどんどん仕事に取り組む、そんな前向きな人生が待っていることでしょう。
しかし、脱却のきっかけは「やりたいこと探し」ではなく、足元にたまたま現れた「宿題」を1つ1つ真摯にこなし、点と点を結んだ先に訪れるのかもしれません。
・・・・・・・・・
こんな趣旨の話を、冒頭のA君に話したところ、後にこんなメッセージをもらいました。
「いつもなら、仕事がある日の朝は嘔吐が止まらないこともあったけど、今日はほとんど症状がなかった。話を聞いて勇気をもらえたおかげだと思う」
そんなわけなので、記事にしようと思い立ちました。
この記事が、A君と同じように苦しんでいる社会人に届きますように。
そして、1人でも多くの人が「やりたいこと探し」という迷宮から抜け出して、課題に向き合う勇気をもてますように。
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