職場で上司や先輩後輩、また仕事相手などと話をしている際、「伝えたいことがうまく話せなかった」と感じることはないでしょうか。人間関係に影響を与えたくないという思いから上司に遠慮して主張できなかったり、後輩との関係性を気にして叱ることができなかったりなど、悩みを抱えている人は少なくないでしょう。
こうした悩みを持つ人が増えてきたことにより注目されているのが「アサーショントレーニング」です。この記事では、アサーションとは何か、またアサーショントレーニングの方法や具体例について解説していきます。
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目次
アサーショントレーニングとは?
アサーション(assertion)とは、「自分の気持ちと相手の気持ち両方を大切にするコミュニケーション」のことです。アサーショントレーニングはこのコミュニケーションを用いたトレーニング方法で、1950年代のアメリカの心理療法が考え方の起源となっています。「アサーション」と「アサーティブ」は同じ意味で、日本語に訳すると「自己表現」と言い換えられます。
アサーショントレーニングが広まった背景
アサーショントレーニングが日本に広まったのは1980年代と言われていますが、近年、特にビジネスシーンでこの考え方が注目されています。背景には、ハラスメントの増加や、職場の人間関係が複雑になったことが挙げられるでしょう。加えて、リモートワーク等のコミュニケーション方法の変化により、ストレスを抱える社員やパートナーは少なくありません。
こうした背景から、企業における環境改善・コミュニケーション改善の施策の一つとしてアサーショントレーニングが注目されているのです。
アサーショントレーニングを実践するメリット
アサーショントレーニングを実践することで、その人や企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。以下で解説していきます。
コミュニケーションが円滑になる
アサーティブにものごとを伝えられるようになると、「顔色を伺って伝えるのを我慢する」といったことが起こりづらくなり、結果的にコミュニケーションをスムーズに進めやすくなります。職場全体の「報連相」スキルの向上にもつながるでしょう。
ストレスが軽減する
「言いたいことが言えない」という状況は、その気持ちを抱えている人にとって心理的に負担がある状態です。アサーションを身に付けることで必要なことを適切に伝えられるようになり、ストレスがたまりにくい職場環境になります。
生産性が向上しやすい環境になる
年次やキャリアに遠慮をせず対等な関係で意見を伝え合えると、会議の質や参加者のモチベーションも上がります。アサーティブなコミュニケーションを続けていくことで、結果的に生産性が上がりやすい環境に変わっていきます。
アサーション(自己表現)の3つのタイプ
アサーションの考え方においては、それぞれの自己表現のタイプを3つに分類しています。各タイプは以下の通りです。
- 攻撃タイプ(アグレッシブ)
- 非主張タイプ(ノン・アサーティブ)
- バランスタイプ(アサーティブ)
それぞれ詳細について以下にまとめました。
攻撃タイプ(アグレッシブ)
相手より自分を優先して考えるタイプです。相手の意見に関わらず、自分の意見を一方的に伝えるようなコミュニケーションで、大きな声や威圧的な態度で強引に意見を押し通すこともあります。
非主張タイプ(ノン・アサーティブ)
自分よりも相手を優先して伝えるタイプです。はっきりと自己主張することが苦手で、相手の意見や態度に合わせてしまうためストレスを溜めやすく、組織からも「意見のない人」と見られる可能性があります。
バランスタイプ(アサーティブ)
自分のことや気持ちを素直に伝えますが、相手の気持ちも考えてコミュニケーションできるタイプです。アグレッシブとノン・アサーティブの良いところを取ったバランス型と言えます。アサーショントレーニングにおいてはこのバランス型(アサーティブ)を目指します。
⇒あなたの「伝える力」の課題はどこにある?【無料診断&アドバイスで、課題と解決策を知る】アサーショントレーニングの実践法
次に、アサーショントレーニングを行う際の4つの実践法をまとめました。それが以下の方法です。
- 「Iメッセージ」を使う
- 「DESC法」を使う
- 感謝とセットで伝える
- 限界を設定して伝える
1.「Iメッセージ」を使う
「Iメッセージ」とは、主語を「You(あなた)」ではなく「I(私)」に変えて伝える方法です。主語を相手にすると否定的に聞こえてしまうことも、「私」に変えることで相手を尊重しながら自分の気持ちを伝えられます。
2.「DESC法」を使う
「DESC(デスク)法」は、以下の順番で話すことで相手にわかりやすく伝えるための方法です。自己主張を4つの段階に分けることで、柔らかく主張をすることができます。
DESCの詳細は以下の通りです。
Describe[描写する] | 今の状況を客観的に表現する |
Explain[説明する] | 描写に対する自分の状況をIメッセージで主張する |
Specify[提案する] | さらに、相手にしてほしいことや解決策を伝える |
Choose[応答する] | 提案で伝えた選択肢を相手にも選んでもらう |
3.感謝とセットで伝える
感謝とセットで主張をする方法もアサーションにおいて有効です。特に何かを断るなどのマイナスな表現をする場合、直接的には言いにくいことも感謝やポジティブな言葉とともに伝えることで相手も嫌な気持ちはしないでしょう。
4.限定を設定して伝える
仕事の依頼や誘いを受けた際、「できること」と「限界」をセットで伝える方法です。できないことは素直に伝えつつ、「できる範囲」を伝えることによってお互い歩み寄ることができるでしょう。
アサーショントレーニングの実践法を用いた例
組織内で起こる事象に対して、アサーショントレーニングの方法を活用した場合(OK例)と、NG例をまとめてみました。
1.「Iメッセージ」を使う例
Iメッセージを使った例文を2つ、紹介します。
例1)自分が後輩に対して資料の作成を依頼したが、設定していた締切直前の時間に提出された。
・NG例:締切には間に合っているけれど、(あなたは)いつも締切の時間に対してギリギリすぎる。余裕を持って提出できない?
・OK例:締切を守って提出してくれてありがとう!さらに1日くらい余裕を持ってくれたら(私は)助かるな。
例2)先輩に打合せの主旨を確認する場合
・NG例:本日のお打ち合わせの主旨って何ですか?
・OK例:本日のお打ち合わせの主旨を教えていただけると(私は)嬉しいです。
上記のように、同じ内容を伝える場合でもIメッセージに変えることで表現が柔らかくなります。
2.「DESC法」を使う例
DESC法を用いて、以下の場面に対する具体例を紹介していきます。
例)「疲れがたまっているので今日は定時で帰ろう」と思っていたところ、帰り際に先輩複数名から食事に誘われた。
Describe[描写する] | 今日はみなさんで集まって飲みに行かれるんですね。 |
Explain[説明する] | (私も)非常に行きたいところなんですが、疲れがたまっていまして…。 |
Specify[提案する] | 来月は私が企画するので、今回はパスしてもよろしいでしょうか。 |
Choose[応答する] | ・相手が「OK」の場合:
ありがとうございます。また来月お声がけしますね! ・相手が「NG」の場合: 申し訳ありませんが、体調を優先させていただけると(私は)嬉しいです。ぜひまたの機会にお願いします。 |
「提案する」際に相手に選択肢を与えているので、「応答する」はOK・NGの場合それぞれに合わせて返答をします。NGの場合にも、相手の気持ちを汲みながら自分の気持ちを伝えるIメッセージを意識してみましょう。
3.感謝とセットで伝える例
感謝とセットで伝える方法の例を紹介します。
例)後輩がミーティング用の資料を作成してくれたが、要点がまとまっていない部分があった。
・NG例:ここの詳細がまとまっていないから、16:00までに修正してくれる?
・OK例:資料作成ありがとう!いい感じ! ここの詳細だけまとまっていないから、16:00までに修正してくれる?
NGの文章の前に感謝の気持ちを足すだけでも、伝わり方も優しくなります。
4.限定を設定して伝える例
限定を設定して伝える例を紹介します。
例)上司に新たな案件の仕事を頼まれたが、タスクが重なっており、自分には新たに受けられる余裕がない。
・NG例:申し訳ありません。現状のタスクで手一杯で、受けられる余裕がありません。
・OK例:ご依頼ありがとうございます。現状のタスクが詰まっている状態のため、案件全部を1人では受けられないのですが、Aさんのサポートという形で入らせていただくのはいかがでしょうか。
アサーショントレーニングを効果的に進めるポイント
アサーショントレーニングをより効果的に行うためには、方法の取得だけでは足りません。以下のポイントも併せて押さえておきましょう。
自分の感情や思考を言語化する
思いついたことや感情をそのまま伝えてしまい、相手を困らせてしまったことはないでしょうか。アサーショントレーニングを習慣化するためにも、日常的に自身の考えを整理し、言語化しておく習慣を身に付けておくことが大切です。
事実・思考・提案を分けて考える
起きている事象に対して細分化して思考する習慣が大切です。アサーショントレーニングにおいてポジティブな提案をセットにして伝える方法がありますが、適切に事実を把握し、適切に思考しなければ良い提案も生まれにくいでしょう。
そのためにも、日常的に「事実」「思考」「提案」を分けて考える習慣を身に付ける必要があります。
ロールプレイングを行う
上記のような言語化・思考の細分化は見ただけでは習得できません。上司や先輩役・後輩役などを設定し、社内でロールプレイングを実施しましょう。繰り返し行うことで習得のスピードも速まります。
まとめ
「うまく伝えられなかった」という経験はどんな立場の人にも起こりうることです。今後、働き方や働く仲間がさらに多様化していく中でコミュニケーションの壁にぶつかるかもしれませんが、アサーションのスキルは会話や仕事を円滑に進めるための一助となるでしょう。
コミュニケーション力はセンスではなく、学びと実践を繰り返すことで身に付けることのできるスキルです。
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